大動脈瘤とは?
大動脈瘤とは「大動脈の一部の壁が、全周性、または局所性に拡大または突出した状態」です。
大動脈の正常径は、一般に胸部大動脈で30mm、腹部大動脈で20mmとされています。直径が正常大動脈径の1.5倍(胸部で45mm、腹部で30mm)を超えて拡大した場合に「大動脈瘤」と言います。
どうして大動脈瘤ができるのか
大動脈瘤の発生には大動脈壁の脆弱化が大きく関与しているとされ、炎症性疾患や先天性結合織異常症、粥状硬化、等による壁の構造異常や破壊によってもたらされます。腹部大動脈瘤の場合、内腔側には強い動脈硬化性変化があり、動脈瘤の発生に動脈硬化が強く関連していると考えられています。しかし、動脈硬化のみでは説明できない点もあり、他の要因、特に遺伝的要因や高血圧の関与も考えられています。
腹部大動脈瘤の疫学
超音波検査によるスクリーニング検査の結果から、高齢男性における腹部大動脈瘤の合併率は4-8%と報告されています。また男性での発生率は女性の4-5倍と言われています。
アメリカでの報告では腹部大動脈瘤が破裂した場合、半数は病院に到着する前に死亡すると言われています。しかし、急死した人がすべて解剖されているわけではないので、この数字は過小評価である可能性があります。
腹部大動脈瘤発症の危険因子
腹部大動脈瘤発症の危険因子としては、高齢、男性、喫煙者、白人、腹部大動脈瘤の家族歴、他部位の大きな動脈瘤の存在、動脈硬化などが指摘されています。腹部大動脈瘤は60歳以下の人ではほとんどみられませんが、加齢とともに罹患率が上昇するとされています。また喫煙は単独で腹部大動脈瘤発症の危険因子です。さらに喫煙は腹部大動脈瘤の増大、破裂を促進するといわれています。
腹部大動脈瘤ではどんな症状が起きるのか
大部分の腹部大動脈瘤は無症状です。時に、腹満感、便秘、腰痛等の症状がみられることがあります。また腹部の拍動性腫瘤で気づかれることもあります。
この他、末梢動脈塞栓または腹部大動脈瘤の急性閉塞により下肢の血行障害をきたすこともあります。
腹部大動脈瘤の診断はどうするの
血液検査で腹部大動脈瘤に特異的なものはありません。つまり血液検査ではわかりません。
診断法としては、腹部の超音波検査が最も簡単かつ非侵襲的に評価することができます(感度 98%, 特異度 99%)。またCT検査も必須の検査法です。3D-CTでは立体的な動脈瘤の全体像を把握することが可能で、治療法の計画を立てる場合に有用とされています。
腹部大動脈瘤の増大スピードは約3~5mm/年といわれていますが、始めは遅く、瘤径の拡大とともに速くなる傾向があり、観察期間は瘤の大きさにより判断する必要があります。
腹部大動脈瘤径と破裂のリスクは?
腹部大動脈瘤の年間破裂率は、診断時の瘤径により異なります。一般に40mm未満で0%、 40~49mmで0.5~5 %、50~ 59mmで3~15 %、60~69mmで10~20 %、70~79mmで20~40 %、80mm以上で30~50%と瘤径が大きくなるほど破裂のリスクが増大すると言われています。ただし嚢状瘤や瘤の一部が突出している動脈瘤は破裂しやすく、50mm以下でも手術を検討する必要があります。
腹部大動脈瘤の手術適応はどうなっているの?
動脈瘤のサイズが50mmを超えていれば治療について検討する必要があります。45~50mmの場合は、女性、高血圧症、喫煙、慢性閉塞性肺疾患、大動脈瘤の家族歴あり、など破裂のリスクが高い場合は早めの手術治療を選ぶか、または合併症等を考慮し3-6ヶ月後の再検査を行います。外科的治療のリスクが高いと推定されるひとではステントグラフト治療を考慮します。
拡張速度は瘤径により異なるとされ、拡張率5mm/6か月以上では手術を行うとする意見が多くみられます。また症状のある動脈瘤は破裂の危険があり手術適応と考えられます。
腹部大動脈瘤は、破裂した場合に救命できる確率は10~15%でしかないため、無症状の状態での診断・治療が重要です。腹部大動脈瘤の治療目的は(1)動脈瘤の破裂、(2)動脈瘤由来の末梢塞栓、(3)動脈瘤による凝固障害といった3つのリスクを予防することで、なかでも破裂を予防し生命予後を延ばすことは最も重要です。従って腹部大動脈瘤の破裂がさし迫っていない場合は、破裂リスクを回避するための内科治療を行い、破裂の可能性が増大した瘤では、外科治療を優先することが原則となります。
腹部大動脈瘤が破裂したらどうなるの
大動脈瘤が破裂すれば、ほとんどのヒトは病院にたどり着く前に死亡すると言われています。救急室へ収容できたとしても診断がついてから緊急手術まで『分』のオーダーが生死を分けるといってよく、いまだに大動脈瘤の切迫破裂は急性期死亡率の非常に高い重篤な病態です。
腹部大動脈瘤破裂の死亡率は90%と高く、手術室にたどり着いたとしても、50~70%のヒトが死亡するといわれています。
腹部大動脈瘤の治療法
現在、腹部大動脈瘤の治療法は二つあります。一つは開腹して大動脈瘤を切除し、人工血管で置き換えるものです(開腹手術)。もう一つは血管内治療とかステントグラフトと言われるもので、足の付け根(大腿動脈)から血管内を通して人工血管を挿入し、内側から大動脈瘤を閉鎖する方法です。
1) 開腹手術 |
2)血管内治療 |
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