2012年からはバルーンを用いて骨セメントを注入する『バルーン・カイホプラスティ(BKP)』、HAブロックを用いた『HAブロック椎体内挿入術』、2023年からは椎体内ステントを用いた『ステントプラスティ(VBS)』などの各種椎体形成術の認定医、認定施設にも指定されており、骨折の状況に応じて最良の方法を選択しております。

腰椎圧迫骨折の低侵襲手術(体に優しい)

 過去には、”加齢による変化のひとつ” としてかたづけられてしまっていた腰椎の圧迫骨折。高齢化社会が叫ばれる昨今、「しょうがない」では、すまされない問題になってきています。「老人になっても、シャンと腰をのばして生きて行きたい」誰もがそう願っていることでしょう。

 2000年より、この高齢者の腰椎圧迫骨折に対し、新しい手術法を用い、積極的に取り組んでいます。今各方面から注目されている背骨への人工ペースト注入術、この手術を当院中野医師が世界にさきがけて行ってきました。

背骨への人工ペースト注入術

高齢者の骨粗しょう症と圧迫骨折

 高齢化社会が進むなかで、骨粗しょう症性脊椎圧迫骨折の頻度は高く、社会的に身近な問題となっています。

 年をとり骨がもろくなると骨粗しょう症になりやすく、転倒や前かがみの動作などの力が加わると、背骨が押しつぶされる脊椎圧迫骨折を起こしやすくなります。

MRI検査でみる骨折部分

 このような骨折に対しては、一般に2~3週間のベッド上安静とギプスやコルセットなどの装具療法が行われます。しかし、認知症がある方や心臓・肺の合併症がある場合、あるいは治療の際に苦痛を伴う場合など、長い安静期間を過ごすことは容易ではありません。また、あとから徐々に骨のつぶれがひどくなる場合もあり、変形を残すと慢性の腰背部痛を起こし痛みが持続するようになります。

この骨がつぶれてます

 このように、これまでの高齢者の脊椎圧迫骨折治療は、長い安静期間と苦痛が伴い、通常の脊椎手術は体への負担が大きく、合併症の危険性も大きいため、「年をとって背中が丸くなり、腰や背中が痛くなるのは仕方ないこと…」とあきらめられていました。

2~3週間のベッド上安静とギプスやコルセットなどの装具療法

ペースト状人工骨治療を世界に先駆けて着手

以前より高齢者にも安全に行える脊椎手術がないものかと考えていました。2000年より、ペースト状で後に徐々に硬化する人工骨(リン酸カルシュウム骨ペースト)が臨床使用可能となりました。これは骨と結合し後に骨におきかわる傾向があり、骨内移植材料としては理想的なものです。そこで私達は世界に先駆け、この人工骨ペーストを用いた骨粗しょう症性脊椎圧迫骨折の新しい治療に着手しました。その後さらに安全化、簡略化を行い、老人の脊椎手術を大きな危険を回避しながら手術可能としました。既に良好な手術結果を多数得て国際的な学術誌や学会に報告しています。

人工骨ペーストを注入し神経症状がとれました

ペースト状人工骨注入術の実際

 では、骨ペーストの正体は理解できても、やはり「腰の骨の手術」と聞くと恐そうですし、ましてや身体の弱っているお年寄りの手術ですから、安全性はどうかなど家族の方も心配されると思います。

 そこで、人工骨ペーストを使用する腰椎の手術とはいったいどのようなものか、実際の手術現場での写真を使ってご説明します。

ペーストの調整ペーストの調整

  1. 麻酔後、ペースト注入用の針を背骨に達するまで刺していきます。刺す位置はレントゲンを使って正確な場所を決定します。
    人工骨ペーストを使用する腰椎の手術の様子
  2. 注入針を背骨に刺したら、次は椎体内の空洞形成を行い安全に注入できることを造影剤などで確認します。後に自身の骨と結合し骨におきかわる移植材料骨ペーストの調整を行います。
    人工骨ペーストを使用する腰椎の手術の様子
  3. そして、いよいよ調整がすんだペーストを、刺してある注入針からつぶれた背骨に注入し、手術は終了です。
    人工骨ペーストを使用する腰椎の手術の様子

ペースト状人工骨注入術(カルシウム骨ペースト注入術)の安全性と有効性

この手術の特徴は

  • ◆安全性が高く体への負担が少ない。従って術後の回復も早い。
  • ◆背骨の中にペーストを注入するだけの手術なので、出血もほとんどなく、痛みも少ない。注入後は早期から痛みが軽くなる。
  • ◆術後の安静期間はわずか1日間ほどで、コルセットを着けて起きることが可能。
  • ◆将来的な背骨の変形防止効果が期待できる

実際に手術を受けられた方の感想は、「腰や背中は“押される感じ”はするが痛みは感じない」「手術直後から痛みが和らいだ」「何ケ月も腰が曲がって痛みが続いたが、術後痛みはほとんどなくなり、少しずつ姿勢もしゃんとしてきた」などです。

 今後、人工骨ペーストや各種の椎体形成術の開発により、高齢者の背骨の治療に対する考え方は、大きく展開して行くことと思われます。リン酸カルシュウム骨ペーストをはじめとするペースト状の人工骨は、さらに発展改良がなされていくでしょうし、われわれが開発した、安全で簡単な手術方法は骨粗しょう症性脊椎骨折の治療においてさらに有効になると考えられます。

 これらの手術は、骨折の原因や程度やけがをしてからの期間により、若干手術の方法に違いがありますのでぜひ当院整形外科へご相談ください。